PAUL SMITHER|ガーデン・デザイナー

植物の言葉、自然の声に耳を傾けて。

数々のガーデンのデザインを手がけるとともに、自ら管理する「八ヶ岳ナチュラルガーデン」で若い世代からプロを対象にワークショップを開催しているポール・スミザーさん。彼が唱える自然の理にかなった庭づくりについて知りたくて、八ヶ岳を訪ねてみた。

 


2月の八ヶ岳ナチュラルガーデン。きれいに手入れをされ、あとは春の訪れを待つばかり。

 

——19歳の時に日本を訪れてから、ほとんどこの国で暮らしているそうですが、日本を選ばれた理由は?

イギリスで園芸学校に通っていた頃、自分が好きだなと思う植物のプレートを見ると、そのほとんどが日本原産のものでした。それで日本人の友達にホームステイ先を紹介してもらって、この国の土を踏んだのが19歳のとき。今では人生の半分以上を日本で過ごしていることになります。

 

——ポールさんがデザインされるガーデンは、一般的な庭づくりとは違って、まるで周りの自然に溶け込むようにつくられていますよね。

植物はそれぞれ適した場所で育てば、自然な形で伸び伸びと成長し、手入れはされているのだけれど、ありのままの自然に近いような庭になるのだと思います。同じ品種であっても、植物はその環境によって生育状態が大きく異なりますから。たとえば、ここ八ヶ岳では年に1回しか花を咲かせない植物も、四国地方など暖かい場所では2回花を楽しめることもあるし、同じ地域でもその年の気候によって違います。また、乾いた日なたもあれば湿った日なたもある。乾いた日陰もあれば湿った日陰もある。植えられた場所によってぐんぐん育つ場合もあれば、枯れてしまうこともある。
 だから、枯れてしまっても自分を責めないで。何でだろう?と考えて、次は違う植物を植えてみればいい。あまり成長しないのであれば違う場所に植え替えればいい。木だって掘り返して移動させたり、いろいろ試してみた方がいいと思います。大切なのは、その木を意識してよく観察すること。そして、この植物が人生を楽しんでいるのかどうかを知ろうとすることなんじゃないかな。

 

——日本ではガーデニングを楽しむ人は年々増えていますが、花屋やホームセンターなどでいざ植物を買おうと思うと、意外と種類が少ないですよね。特にホームセンターでは、くわしい育て方を教えてくれる人もいませんし。

ホームセンターは自分のところでつくっているわけではないですからね。本来は、つくっているところで買うのが望ましいのだと思います。日本では欲しい植物があっても自分で頑張って探すしかないし、探すのも大変。昔からある品種なのに登録されていなかったり、正式な学名がなかったり。名前がきちんとないから、つくる側も生産もしにくい。一方、イギリスでは王立園芸協会という団体があって、ほとんどの植物の学名や原産国などがファイリングされているし、だいたいどんな品種でも手に入れることができます。
 実は、イギリスには日本の植物がたくさんあって、イギリスの庭からそれらの植物を取り除くとスカスカになるほどです。なのに、日本の街中の公園を見ると、サツキやサザンカなど、わずかな種類の同じような植栽が同じように植えられている。“植えている”というよりは“埋めている”という感じ。しかも四角くキレイに刈り込まれていて、まるで緑色のコンクリートみたい。ドウダンツツジなんか、みんな元々丸いものだと思っているんじゃないかな(笑)。街の中の緑はみんなの心を癒すためでもあるのに、本当にもったいないと思います。そもそもきちんと植物の手入れができる人材が、日本にはとても少ない。

 

——ポールさんはご自身が管理される「ナチュラルガーデン」でワークショップも開いていらっしゃるのですよね?

僕が教えているのは、庭が健康になるための手入れの仕方。園芸学校に通っていたけど植物にさわらないまま卒業したという若い人が多く、植物が元気に育つための手入れができる人がとても少ないのが現状でしたから。街路樹のハナミズキの木も犠牲になっている植物のひとつ。2年目、3年目の枝で花が咲くのにどんどん切ってしまうから花が咲かなくなってしまう。まるでこの植物を絶滅させようと思っているみたいな(笑)剪定をする人もいます。
 日本はイギリスと違って園芸に関する基準も明確でなければ、資格も統一されていません。種や苗の管理から人材に至るまでシステム化されていない日本はとても遅れています。これを何とか変えていかなくちゃいけない。
 自然環境が脅かされている今だからこそ、植物に携わる人の役割はこれからもっと重要になってくると思います。幸いなことに、園芸の仕事をしたいと希望する若い人、特に男性が年々増えています。こうした若い世代に植物との付き合い方や楽しみ方を伝えていくこと、それも僕の仕事のひとつですね。

 

プロフィール
ポール・スミザー|ガーデン・デザイナー

イギリス・バークシャー州生まれ。英国王立園芸協会ウィズリーガーデンおよび米国ロングウッドガーデンで園芸学とデザインを学ぶ。1997年に有限会社ガーデンルームスを設立。庭の設計、施工および園芸全般に関するコンサルティングや講師として活動。原種系の宿根草類を中心とした自然な雰囲気の庭づくりには定評がある。自ら管理する八ヶ岳ナチュラルガーデンでは、初心者からプロまでを対象に自然の理にかなったこれからの庭づくりを指導している。テレビ、雑誌など多方面で活躍中。著書は『街の中に四季をつくる』(宝島社)ほか多数。宝塚ガーデンフィールズ「シーズンズ」、軽井沢絵本の森美術館「ピクチャレスク・ガーデン」などを手がける。
URL http://www.gardenrooms.jp/

 

ポール・スミザーさんの手仕事

手仕事とは何も“もの”に限ったことではない。ありのままの自然を活かしながら、時間をかけ、丹精込めてつくりあげる四季のガーデンそのものが、ポール・スミザー氏の作品だ。

 

■ 美しい生命力に満ちあふれる街のオアシス|「宝塚ガーデンフィールズ・シーズンズ」

兵庫県の宝塚ファミリーランドが閉園した跡地で2003年からポール・スミザー氏が手がけているガーデンでは、風土に合わせて厳選された約1500種類の植物が完全無農薬で育てられている。
多年草が中心のこの庭は年月を追うごとに庭の成長を感じることができ、花の咲く時期だけではなく、葉っぱや植物の個性により1年を通して多彩な表情を見せてくれる。
街の中心部とは思えないほど自然の風景のようにつくられた庭園は12のエリアで構成。木陰の多い森林風から日当たりの草原風、また大きな池には水生植物が茂り、小川の中には流木が配されるなど、それぞれの場所でそれぞれの植物が伸び伸びと呼吸をしているのが感じられる。「ポールのガーデン講座」も開催。写真は春夏のシーズンズ。

 

■ 雄大な自然に溶け込む|「八ヶ岳ナチュラルガーデン」

八ヶ岳をはじめ甲斐駒ケ岳など360度を山々に囲まれたナチュラルガーデンは、10年前より休耕田だった土地を借りて、ポール・スミザー氏自らが管理している。
日本の植物が大好きで、日本の風土をこよなく愛し活動してきた彼が、このガーデンで日本の植物や原種系の宿根草を主体にした自然流庭づくりを実践。
日なた、日陰、乾燥したところ、湿ったところなどガーデンの至る場所でこの地域の風土に合った植物が生き生きと育ち、まさに八ヶ岳の景観にみごとに溶け込んでいる。
この地で緑がいちばん青々と輝くのは7月だが、季節の移ろいもまた美しいとしみじみ感じさせてくれるガーデンだ。

 

(グラスルーツ 編集部)

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