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“裸足のアーティスト”が描く世界最古のストーリー

オーストラリアを代表する芸術のひとつ、アボリジニ・アート。
その知られざる魅力について、メルボルン在住、日本におけるアボリジニ・アートの第一人者である内田真弓さんに伺った。

何世代にもわたって伝承されるものがたり

太古から続く広大な大地の物語を連綿と語り継いでいる人たちがいる。アボリジニ——4万年以上も前、初めてオーストラリア大陸の大地を踏んだ先住民族だ。狩猟採集民族だった彼らは文字を持たない。その代わりに彼らが選んだコミュニケーションの手段は、歌や踊り、そして絵画であった。厳しい自然の中で生き抜くための知恵や情報、記録、慣習、掟などを、大地の上に天然の粘土で描いた砂絵として、体の上に顔料で描いたボディペイントとして、次の世代へと伝承してきたのだ。
「そんな彼らのストーリーが“アート”として注目されはじめたのは、今からわずか40年ほど前のことです。1971年、アボリジニの絵に高い芸術性を感じたイギリス人の美術教師が、彼らにキャンバスとアクリル絵の具という現代的な素材を与えたことで、それまで写真でしか見ることのできなかった彼らの作品が一般の人々の目に触れるようになったのです」と内田さん。現在では、アボリジニ・アートの展覧会は世界中で行われるようになり、市場においてもその価値は高まっているという。

彼らのスピリッツを届けたい
グロリア・ペチャラ「ブッシュメディシン ドリーミング・薬草の物語」

グロリア・ペチャラ「ブッシュメディシン ドリーミング・薬草の物語」

内田さんも、彼らの作品に魅了された一人。彼女は勤務していた航空会社を辞め、日本語教師としてオーストラリアに渡ったが、1年間の任期を終えて帰国直前のある日、メルボルンのギャラリーでアボリジニ・アートと運命的に出会ったのだそう。「ひと目見たとき、まるで雷が落ちたかのような、魂を盗まれたような衝撃を受けました」。その場でギャラリーのオーナーにスタッフとしてスカウトされ、約6年間勤務した後、独立。現在に至るまで20年間、アボリジニの人々との交流を深めながら、メルボルンを拠点に彼らの作品を日本で広める活動を行っている。
「いい作品があるなしに関わらず、定期的に彼らの居住区を訪れています。私がよく行くのはメルボルンから3000キロ離れたノーザン・テリトリー州のウルルという地域。片言の英語しか通じないのですが、砂漠の真ん中で大地と深く関わって暮らす人々、自分とはまったく異なる価値観や時間軸を持つ彼らからは、いつもたくさんのことを学んでいます。都会暮らしでガチガチに凝り固まった頭や心を解きほぐしてもらっているんです」と内田さん。
ギャラリーに展示されているのは一握りのアボリジニの作品だが、彼らは子どもから大人まで誰もが絵を描くのだそう。「絵を描いている人の横で、誰かが歌ったり踊ったりしていますね。何を描いたのか尋ねると、彼らはいつもこう答えます。“This is my country”と。彼らは芸術のために描いているんじゃない。大地のこと、そして“ドリーミング”と呼ばれる創世神話や伝説を伝承するために描き続けているのです。アートは彼らにとって宗教であり哲学であり、生き方そのもの。アボリジニ・アートを解読する必要はありません。ただ何かを感じてもらえばいい。最近はアボリジニの人々の生活も変わりつつあり、ワクワクするような絵が少なくなっています。それでも彼らがドリーミングを伝える限り、私も一人でも多くの人に彼らのアート、彼らのことを伝え続けていきたいですね」。

pic_16_greenAction2-01内田 真弓さん
Mayumi Uchida

アボリジナルアートコーディネーター。「ART SPACE LAND OF DREAMS」主宰。主な活動は日本におけるアボリジニ・アート展の企画開催。著書に『砂漠で見つけた夢』(K.Kベストセラーズ)。
(グラスルーツ 編集部)

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